水中お見舞い申し上げます
前略
水道管が破裂し、家がすっかり水浸しになっております。
先々月も、正月目前に同じようなことがございましたので、さすがに気が滅入ってまいります。
昨日は朝一番に突き指をいたしましたうえ、一日じゅう慌ただしく動き回っておりましたので、寒さが厳しいと承知しながらも、凍結防止の対策がつい甘くなっておりました。
世の中は大雪と選挙の話題ばかりで、凍結に関する注意喚起もあまり耳にしなかったように思われます。
さて、水で苦労するとなりますと、どうしても中国で暮らしていた頃のことを思い出してしまいます。
あちらでは、水が出ないのは日常の一部でございましたから。
蛇口はひねるものではなく、引き上げるもの。ひねっても空回りするだけですので、思い切って「えいっ」と上に引っ張るのです。
すると、朝一番に出てくる水は決まって真っ白か、あるいは真っ赤でございました。
それでも水が出ればまだ良いほうで、上の階まで水が上がってこない日は、一階の守衛のお爺さんに分けていただきに行ったものです。
そして、ここが肝心なのですが——水が出たと思っても、決して安心することはできません。
常に、いつ止まるかわからないからでございます。
そのため、顔を洗うにも歯を磨くにも、まず洗面器やコップに水をためてから行うのが鉄則でございました。
中国に来たばかりの外国の方が、顔中泡だらけのまま断水に遭い、廊下を右往左往していらっしゃるお姿をよく見かけたものです。
武術隊では、お湯が出る時間が決まっておりました。
限られた時間に、少ない水で様々な運動隊の仲間がいっぺんに入浴するものですから、一つのシャワー口に何人もが群がることになりましたが、上のシャワー口から出る水は、あちこちに散って降ってきますので、誰かがタオルを引っかけて水を一か所に集める工夫をしていたことを覚えております。
そんなある日、誰かが脱衣室のドアをしっかり閉めずに出て行った際、冷たい風が吹き込んでまいりました。
すると、同じチームの子が「グアンメン!(ドアを閉めて)」と一言、鋭い回し蹴りでドアを閉めたのです。
見事な身のこなしでしたが、彼女がまだ服を着ておらず、脱衣室がそのまま外につながっていたことを思うと、今でも驚きと恥ずかしさが入り混じります。
お話を戻しますと、こうした水事情の中で、自然と「少ない水で全身を洗う術」も身についてまいりました。
バケツ二杯の冷水と、やかん一杯の熱湯、そして手拭いが二本あれば、髪が長くても零下の中でぎりぎり全身を洗えるのでございます。(この手順につきましては、また折を見てお話ししたいと存じます)
ですからあの頃に、水事情が少々不便でも、出てさえいれば工夫次第でどうにかなるものだと学んだように思います。
そんな暮らしを懐かしく思い出しながら、吹き出す水をバケツに受けております早春の夜でございます。
草々


