カンフー体操1
はじめに
カンフーに入門後、いちばんはじめに学ぶ「カンフー体操1」をご紹介します。
カンフー体操1は、おぼえやすいように動作がとてもみじかく、左右対称にできています。
また、学校や幼稚園などで、みんなでそろって練習しやすいように、「1,2…」と号令にあわせた体操のつくりになっています。
高く足を蹴ったりもしませんから、大人でもたのしめます。
この「カンフー体操1」と、もうひとつの「カンフー体操2」ができるようになれば、子どもたちはいろいろな大会、競技会に参加して、選手として活躍することができます。
それから大人の人も、長拳技能検定試験などに挑戦することができますよ。
それでは最初に、JWTF指導員の資格をもつ、テッチ兄さんの模範演武をごらんください。
カンフー体操1 動作説明(前半)
予備勢(ようい)
両足をそろえて立ったら、まず長拳に入る前段階の姿勢をしずかにつくります。
胸を張り、頭頂はぐっと上に引き上げて立ち、両肩はすっと下におろします。
目に少し力を入れ、あごは自然にひきましょう。
下では地面が自分を支え、上は天に自分を引き上げているイメージです。これで静かに開始を待ちます。
1.併歩抱拳
動作の開始です。一挙に爆発するイメージになります。
両こぶしをにぎり、腰まで引き上げます。両肘で後ろを突くように勢いをよくし、拳の位置は極力うしろにおさめます。
拳は、かならず親指を外に出してにぎります。
胸をはった状態を保ちますが、肩があがったり、うしろにのけぞったりしないようにします。
腹はぐっと力をいれて固めます。
目にはするどい力を込めます。このとき湧き上がる気迫は、最後の収勢まで一気につなぎます。
2.馬歩双劈拳
左足をひだりへ開き、馬歩になります。
両手はクロスするように下へ掛け、劈拳で上から左右に打ち下ろします。
クロスする時は、右手が中になるようにします。
馬歩が完成したときは、上体をほんのすこし左へ前傾したり、後面の右手をごくわずかに高めにして、身型をつくってもよいでしょう。
でもこれは本来体操としてシンプルに対称につくられた套路ですから、あまり極端に左右を違えないようにします。
芸術性を求めすぎないのが、このカンフー体操の良さですし、左右の劈拳に力のちがい、到達点の過不足があってはいけません。
頭はすばやく左へ向け、目はしっかりと左手の先を見すえます。
両腕は肩甲骨からひきのばして、遠くに拳を打ち下ろします。
なお、この馬歩の際に左足が勢い込んで震脚になる方がありますが、けっして悪い事ではありません。
ただ、ここは震脚ではありませんので、力強いまま、音をあまりたてずに足をひらくことも、コントロールしてできるようにしましょう。
3.左弓歩衝拳
右手は瞬間的に右腰につけます。
左弓歩になり、右拳は腰からただちに衝拳をします。左拳は抱拳となります。
弓歩のひざは完全にのばし、足の裏は床から浮かないように強くふんばります。
力は一番遠いところ(ここでは拳面)へ爆発的にいっぺんに到達させ、二次的に伸ばさないようにしましょう。
4.弾腿衝拳
右足の膝を曲げ、ひきあげます。
右つまさきで、短いリズムで、強く腰の高さに蹴りあげます。
この蹴りは、瞬時にするどくおこなう必要があります。
右拳は右腰にもどし、左拳は打ち出します。
十分に腰をひねり、背骨を立て、頭は上へひきあげます。わずかに前傾してもよいでしょう。
片足立ちで不安定になりますが、あごはややひき、目はするどく見たままです。
5.左弓歩衝拳
右足を後方にひいて、左弓歩にもどります。
右衝拳をします。腰はじゅうぶんにひねり、右拳面と右足のかかとが力強く、前とうしろに伸びているようにします。
このような拗(手足が逆の)弓歩では、だれでも姿勢が高くなりがちですから、気を付けます。
6.馬歩左衝拳
右ひじをすばやく曲げ、右方向からの攻撃からガードします。「格」という動作です。
同時に重心を両足の中間にすばやく移動させ馬歩になり、ついで左衝拳をします。
(重心が移動すれば、左足はかるくなりますから、ただちにつま先を内に入れ、馬歩のかたちをとります。この間、半しゃがみの低さを保ちます。)
右手は右腰につけます。
腰をじゅうぶんひねり、両手は前後に遠距離で伸びるようにします。
「はい!」と発声します。
7.馬歩右衝拳
右拳で打ち出します。
「はい!」と発声します。
8.馬歩左衝拳
続けて左拳で打ち出します
「はい!」と発声します。
1.併歩抱拳
左足をよせて立ち、両こぶしは腰に戻します。
瞬時に、胸をはって頭頂をひきあげて立つ、長拳の姿勢をとります。
一瞬静止しますが、気迫は保ちます。
ここで前半がおわり、後半は対称に行います。
カンフー体操1 動作説明(後半)
2.馬歩双劈拳
前半と同様に、今度は右方向へ動作を展開します。
ここでの手のクロスは、左手が中で、前半とは逆です。
はじめて右方向に世界が開かれます。転頭はするどい目線をともない、すばやくはっきりおこないます。
3.右弓歩衝拳
前半と左右対称です。
4.弾腿衝拳
前半と左右対称です。
5.右弓歩衝拳
前半と左右対称です。
6.馬歩右衝拳
前半と左右対称です。
「はい!」と発声します。
7.馬歩左衝拳
前半と左右対称です。
「はい!」と発声します。
8.馬歩右衝拳
前半と左右対称です。
「はい!」と発声します。
1.併歩抱拳
右足を閉じて立ち、右拳は前から直接腰に引き戻し、抱拳となります。
2.収勢(なおれ)
両手をすばやくおろします。姿勢はまだ、まっすぐを保ちます。
静止状態で2秒ほど待ってから、本当の終わりです。体の力をふつうに戻します。
カンフー体操1 補足せつめい
説明中の数字は、ごうれいです。ごうれいのうち、前半「7,8」と、後半「7,8」はつづけてかけます。
双劈拳は、太極拳選手ではめだって沈肩垂肘になりやすいので気をつけます。
馬歩の両つま先は前へ向けます。
弾腿はひざの屈伸でおこなう動作です。
この過程がうまくできない時は、蹴り出すまえに、膝や大腿部を何かにあてる練習をすると、感覚がつかみやすくなります。
衝拳はすべて「平衝拳」で行います。
発声のリズムは「ハイ!ハイ、ハイ!」です。
つまり、前半三回ある馬歩衝拳のうち、さいしょのひとつは単独で「ハイ!」とおこない、あとの二つは「ハイ、ハイッ!」と連続させることになります。
これは後半でもおなじです。
おわりに
長拳技能検定試験でも採用される「カンフー体操」、とてもみじかく簡単なものですが、ここには長拳の姿勢、手足の出し方、リズム、かなりの要素がつまっています。
しっかりと身につければ、ここからも多くを知ることができるでしょう。
“入門引路需口授”
「師がなくては学べない」といわれる武術ですが、このカンフー体操なら、よい資料も多く出回っていますし、独学でもなんとかなるかもしれません。
カンフーに興味のある皆さん、今ここから、カンフーの世界への第一歩をふみだしてみてはいかがでしょうか!
執筆者 石川 まな (カンフーチーム 点睛会 代表)
関連資料
〇(社)日本武術太極拳連盟『普及用長拳』,1998
〇全国武术馆校教材编写组『全国武术馆校教材』2, pp.6-15,1997
関連記事
カンフー体操1 動作名称では、各動作の中国語読みも紹介しております。