五歩拳

五歩拳は、長拳の基本動作をもとに構成された、武術入門者向けのシンプルな套路です。

五つの基本的な歩型を中心に、三つの手の形やさまざまな技法、足さばきを組み合わせて作られており、武術に必要な身のこなしや基礎動作を身につけるのに非常に適しています。

五歩拳の訓練は武術基本功と同じく、どの拳法を学ぶうえでも欠かせません。入門段階で基礎に慣れるだけでなく、長期的に継続して練習することで、武術全般の技術向上にも大きな効果を発揮します。

動き自体は簡潔で、どなたでもすぐに習得できますが、正確にこなすには各動作への正しい理解と、一定期間の訓練が必要です。

本記事では、初心者の方にもわかりやすく、また武術経験者の方にも興味を持っていただけるよう、五歩拳を丁寧に解説していきます。

五歩拳に出てくる主な技術

  • 歩型…併歩、弓歩、馬歩、歇歩、提膝、仆歩、虚歩(このうち弓・馬・歇・仆・虚歩を以って五歩とする)
  • 歩法、腿法…上歩、弾腿、撤歩
  • 手型…拳、掌、勾
  • 手法…抱拳、衝拳、搂手、亮掌、按掌、穿掌、挑掌、

五歩拳動作解説

併歩抱拳

気を付けの姿勢から、両手を腰に構え(抱拳)、頭を左へ向ける(転頭)。

ポイント:

抱拳と転頭の動作は猛烈に機敏に行う。
目光は頭部の動きに合わせ、鋭く左へ走らせる。

弓歩衝拳(上歩七星)

左拳は掌に変え、まず自分の前を瞬間的に右に払い右胸の前に寄せる。
ただちに左足を速く強く一歩踏み出し、同時に左掌は、前動作に続けて左へ水平に力強く払い出す。
重心は右足におく。


左掌が最も遠い位置へ到達するタイミングで、右足にあった重心を左足にかけながら、右足を蹴りだし、腰を左に回転させる。
この腰の回転に合わせ、左腕を外旋して掌を拳に変えながら、鋭く強く左腰の位置へ引き戻す。入れ違いに右衝拳を強く速く打ち出し、足は左弓歩となる。

ポイント:

左足の踏み込みは強く、瞬時に行う。

拳は左右とも強固に握りしめる。

右衝拳の打ち出し時には、肩の力を抜いてスピードを出し、完了時には、右腕は前腕から拳にかけて力を込め、硬く張る。
左抱拳はきつく後方に引き、腰に密着させて固める。

右拳を打ち出している
左手は鋭く引き、入れ違いに右拳を打つ

弾腿衝拳

右拳は外旋させて、やや内側にカーブした路線をとりながら強く引き戻し抱拳となる。入れ違いに左衝拳を強く打ち出す。
同時に右弾腿を腰の高さに短く鋭く蹴り放つ。

ポイント:

右上腕は脇を締めるように引き戻し、腰と右腕全体を一体化させた後、抱拳で後ろへ肘を突き出すが、抱拳時の肘も体から横に離れないようにする。

弾腿の力点はつま先であるが、蹴りが完成した瞬間にだけ力を入れるのではなく、膝を曲げた状態から蹴り始めたらただちに力を足首や脛にこめる意識を持ち、打撃インパクトの距離には幅をもたせるようにする。(蹴り出さずに完成させる場合がある)

このように蹴り出しながら、最終的に最も遠い位置ではつま先に力を集める。

右手を引き戻す路線にわずかなカーブはあるが、全体動作は体の軸を上に立て、直線的に鋭く素早く行う。

足を蹴り出した姿勢は股を締めて体をねじる。顎を引き、左肩は沈め、左肘と左脇、左脇腹はひとつの線で連なる感覚を持つ。
このようにして、遠距離に手足を放ちつつ、急所を守る意識を持つ。

訓練時は弾腿は蹴り出した位置で止め、上記の姿勢を力を込めたまま保持する。

右蹴り、左打ち
右手は強く引き、拮抗して蹴り出す

馬歩架打

挙げている右足をまず素早く膝を曲げ戻す。ついで足を内旋させ、体を左へ回転しながら馬歩になって着地する。

右衝拳をする。
左拳はただちに内旋させ掌に変えながら上へ引き挙げ、更に上方で上へ支え挙げる。

顔は右衝拳の方向に向ける。

ポイント:

弾腿は意識して切れよく少し曲げ戻し、ただちに馬歩につなぐ。

この右衝は、弾腿で引き揚げていた体全体の重みを使い、衝撃点を深く叩き込むように打つ。

馬歩で打つ
前図の高い重心を一挙に落としながら、全身で打ち込む

歇歩盖打

素早く左に顔を向ける。
左掌はただちに肘から左下方向、顎の高さ程まで下げ、左脇腹を守る。右拳は掌に変え、上へ持ち上げる。

左足を素早く一歩引き、右足の後ろに差し込む。
左掌は更に下へ払い、腰に引き戻し抱拳となる。右掌はまず額上部で頭部を守り、続けて下へ下げ胸の前で按掌をする。指は左向き、掌心は下向き。

素早くしゃがみ、歇歩となる。同時に右掌は外旋しながら引き戻し、右腰で抱拳となる。
その引き戻す右前腕の上を通過して左衝拳を打ち出す。高さは肩の高さ。

ポイント:

按掌の時右脇は空けるが、肘には下垂の意識を持つ。

歇歩でしゃがむときは、体を右へねじり頭部を守る意識を持つ。上体は前傾して左手を遠くにすばやく打ち込むようにする。

套路全般に言えることだが、実戦用法はひとつとは限らず、鍛錬の意味も強く含まれている。
この動作では単に振り返り打つだけでなく、前図の「馬歩架打」から左手で相手の腕をつかみ引き、右手で肩や肘を反関節に抑え、体勢を崩した相手を下段に打つ流れとしても練習できる。
しかし、動作名称に「盖打」と指示があるので、基本練習はそれに従い、慣れてきたら更なる意義がないか、意識の中に取り入れてみる。

低姿勢で打ち込む
前動作からこの一連の動きは、脇を充分に意識する

提膝仆歩穿掌(魁星勢、倒騎龍)

1.提膝穿掌

立ち上がりながら右へねじっていた体を素早く左へねじり返す。
右拳を掌に変え、肘を脇に擦るようにして顔の前に持ち挙げ守る。
左拳は掌に変え、脇を締めて右前腕の下に戻し、守る。

右膝を完全に伸ばして立ち上がる。左提膝となり股を守る。同時に右掌を突き刺す(穿掌)。掌心は上向き、高さは目の高さ。
左掌は右上腕の下を擦って右脇まで戻し、脇の下から脇腹を守る。左掌心は下向き。

ポイント:

左右の手は、体のねじり戻しに合わせ体の正中線を意識して通過し、顔面および上半身を守る路線をとる。

左提膝は右穿掌に対して左方向に挙げるが、股を空けずに小腿に内向きの角度をつけて挙げる。

この動作は伸びあがって遠方を差す。
上体は前傾し、右肩を前に送り、頭部は頭頂から後頭部を引き上げるようにする。
伸びあがる時にむやみに顔を上げることはせず、また明らかに顎を下げることもなく、わずかに顎を引いた姿勢を維持し、右肩では守る意識を持つ。

片足立ちで右手を差し込む
左右の手は、上半身の防御を意識した路線で出す

2.仆歩穿掌

左足を瞬時に強く仆歩で左に切り出し、同時に姿勢を一挙に下げる。顔は左に向ける。同時に左掌を体に沿わせて左大腿内側から小腿内側に差し出す。
右掌は内旋し、右上方に維持する。

両掌心は前に向ける。

ポイント:

体を下げる瞬間は、切り出す左足に重心が直ちに移らないように、まずわずかに体を右回転し、右足で重心を支える。左足が地面に着き、仆歩となった瞬間には直ちに上体を仆腿の方向へ前傾し、それにつれて左插掌は大腿から小腿、左足の傍まで差し込む。

頭は上へ伸ばさず、やや低頭して意識を張る。

左足を低く出し、左手を出して入り込む
下がるだけでなく切り込み、入り込む

虚歩亮掌(排山倒海)

前動作から体を更に前へ移動させる。重心を左足に移動し立ち上がりながら、左掌を親指側を上にして跳ね上げる。
右掌は下げ、右足と同時に前へ出す。
左掌は引き続き真上から後ろへ回し、下向きの勾手とする。
同時に右虚歩になり、右掌を右大腿部の外側に沿わせて跳ね上げる(挑掌)。

ポイント:

両手は体の左回転に合わせ、耳と大腿部をガイドに正確な縦の円で回す。勾手と挑掌の瞬間には最も薄い円の路線で動作が完成し、正面から見ると右手から勾手までが一直線上に乗るようにする。

左肩は大きく後方へ引き、最も遠い位置で勾手となる。右肘はわずかに緩みをもたせるが、腕自体は胸から引き伸ばし、前後に伸びやかな姿勢をとる。この時、右脇を守るよう下垂の意識を持つ。

併歩抱拳

体を左へ回転させ、左足を寄せて併歩となる。
両手は鋭く抱拳となる。

引き続き右弓歩から前進し、反面動作を継続練習する。
あるいは戻る方向に左弓歩から始め、同一動作を繰り返し練習してもよい。

五歩拳まとめ

武術の套路練習では、まず各動作に付けられた漢字の意味や用法に沿って動きを理解し、そこから派生するさまざまな解釈や応用にも意識を向けていきます。こうした積み重ねが、単なる形の習得にとどまらず、武術そのものへの理解を深める大切な過程になります。

五歩拳は短い套路でありながら、武術の基本となる身法・歩法・手法が凝縮されており、練習を重ねるほどにその奥行きや味わいが増していきます。
最初はシンプルに見える動きでも、身体の使い方や意識の置き方を変えることで、新たな発見が次々と生まれるはずです。

皆さんもぜひ日々の訓練に五歩拳を取り入れてみて下さい。
丁寧に続けていくことで、武術全般の理解と技術がより確かなものになっていくでしょう。

模範演武 杉山徹朗 (カンフーチーム 点睛会所属)
執筆 石川 まな (カンフーチーム 点睛会 代表)

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