無限柿
町中で見かける木は、ほとんど甘柿。
現代では渋柿は人気がありませんね。
欲しがる人はあまりいません。

先生は昔、週末に一週間の練習を終えると、軍コートにくるまって夜市へ行きました。
そして凄まじく寒い露店で冷え冷えの大きな柿を買い、暖気※1でほの温かくなった部屋に戻って食べるのが好きでした。
ガラス製のような半透明の美しい柿を、ナイフで切ると中はトロトロ。
それをスプーンですくって食べるのです。
最高に甘くて、まるで高級なデザートと言っても過言ではない、あれは渋をぬいた渋柿でした。

熊のつぎは柿だ。みんなも10個くらいお家に干してみたらどうですか?
先生のいる山居には、芝地の二号審判のあたりに2本の古い渋柿の木があります。
完全無農薬で、剪定はしますが間引きはなし。
要するにほぼ放任で育ち、結実は隔年です。
今年は“なり年”で、庭の一角に夕陽色の実がたわわとなっていました。
柿の木は登るには枝が弱いし※2、渋柿は貰い手がなく、そんなにめいっぱい収穫しなくてもいいと思っているのですが、実をほったらかしにすると獣が来るという事で、先生は頑張って採りました。

上にたわわとなっていた実が下に移動したので、部屋が柿だらけになりましたよ。
とりあえず100個皮を剥いて窓の外に吊るしたら、今度は窓の外が柿だらけ。
さらに100個焼酎につけて物置に避難させました。
それでもまだまだ家の中は柿の海。
しびれる手をさすりながらその日に見た夢は、みんなにも手伝ってもらって、秦野の体育館いっぱいに柿を吊るすというものでした。
体育館の人に「先生困ります」と怒られて目が覚めたのです。

でも先生だって困ります。
この柿さん達をどうしましょ。
みんなも一人10個くらいお家に干してみたらどうですか?

”物は集まる”の法則
この地球の七不思議として、どうやら物は集まる習性を持たされています。
右のミラーを手に入れたら、また右のミラーをもらったり、笛を頂戴したらまた笛を贈られたり。
その法則がまたしても。
大量の柿を右へ左へ動かしても数は変わらず、それでも干した分だけ少しずつかさが減り、見た目にも落ち着いてきたところへ、軽トラが登場。
「こんなに採れた!」と、一体どこから頂戴して来たのか、三郎君がまた渋柿を持ってきてくれましたとさ。
※1 暖気(ヌアンチー):中国の集中暖房システムのこと
※2 柿の木は折れやすいので、どんな元気な子も絶対に登ってはいけません。

