入門長拳・前編
はじめに
入門長拳は、カンフーを本格的に学び始める際の最初の套路です。
カンフー体操1・2の次の段階として学ばれることが多く、競技会の種目として採用されているだけでなく、長拳技能検定の課題にもなっています。
この套路では、新たに三つの歩型が加わり、カンフー体操と合わせ基本の五歩型(馬歩・弓歩・仆歩・歇歩・虚歩)がすべて揃います。
左右への大きな移動や、体の中からの発声・地に響かせる震脚や拍地・高い位置で明るく鳴らす拍脚など、メリハリの効いた動作と多彩な音を組み合わせた、よりダイナミックな構成となっています。
前半となる本記事では弓歩衝拳までを扱い※1、後半の記事では残りの動作やポイントを解説します。
JWTF公式のテキストや、多くの参考動画などとあわせてお読みいただければ、きっと検定試験、演武会、いろいろな場面で役に立つでしょう。
入門長拳の動作説明について
動作名の前にある数字は「号令」を示しています。
号令のかけ方は自由ですが、入門長拳は「技能検定試験」や「長拳指導員試験」でも採用されている套路で、試験ではテキスト通りに動作ができることだけでなく、号令を正しくかけられることも大切です。
そのため、今後のステップアップをお考えの方は、号令も始めからテキスト※2通りに練習しておくと安心です。
入門長拳前半「予備勢」から「弓歩衝拳」まで
予備勢
正面を向いて立つ。
この套路はスタートしてから左方向へ移動するので、そのスペースを意識して位置を決める。

1.併歩抱拳
両手を拳にして腰につけ、同時に左へ素早く頭を回す(転頭)。
ポイント:
抱拳の時に、肩が上がってしまわないように。
肩甲骨を寄せるようにし、拳は極力後ろに構える。
重心をやや前寄りにし、足の指でしっかり地面を掴む。体の軸を充分上へ引き上げ、伸びやかな姿勢を作る。
目は力を込めて鋭く左を見る。

2.弓歩衝拳
左手は拳から掌に変え、右胸の前を通過(図3)してから左へ平らに払い出す。
その流れで左腰に抱拳でおさめる。
同時に左足は左へ一歩踏み出し、半馬歩を経て左弓歩になる。
右拳を平拳で力強く打ち出す。
ポイント:
最初の弓歩。後ろ足の膝は力を込めて伸ばし、足の裏全面を強く接地させること。
手足が逆になる弓歩(拗弓歩)は歩型が高くなりやすいので、意識して低くする。
名称にはないが、左手の払い(搂)が入っているのでしっかり行う。この払いは「平ら」と指示があるので、初級長拳一段にある下段払いよりも高い位置を払う。
様々なパターン:
併歩から弓歩へ移る間に仆歩を挟み、下段を払うやり方も稀にみる。間違いともいえないが、初級長拳と区別するにも仆歩は無くてよい。


3.弓歩撩掌
足はそのまま。右手を掌に変え、上から後ろへ回し、下から斜め前下(へその高さ)に掌心で打ち出す。
左掌はまず右胸に当て、そこから一度前へ伸ばしてから、右前腕を抑えるようにそえる。
頭部は右手を追うように一度振り返り、再び撩掌の方向に向ける。
様々なパターン:
この動作は後半の上勾拳と似ており、右前腕を抑える選手が多いが、右脇に近い上腕に添えて守る場合もあり、これも間違いではない。
従って左手を添える時に叩き鳴らす必要はないが、鳴っても悪い事ではない。
1の弓歩衝拳と2の弓歩撩掌の間に、一度右膝を緩めて足腰で大きく蓄力する選手と、足は動かさずに手を回し、腰の力をメインに使う選手があるが、動作名称の指示通り二つの歩型と手法が明確であればどちらも間違いではない。
ここの撩掌で出した手首がわずかに反っているのも間違いではないが、やりすぎない様にする。

4.仆歩下截掌
右手を強く瞬間的に握りながら、強く腰へ引き戻す。
同時に左掌を右腕に沿って前へ押し出す。小指側を前にし、掌は下向き。
同時に重心を後ろへかけ、左仆歩となる。
目線は下過ぎず左手の上方に走らせ、全体を見るようにする。
注意点:
出した左手の指先が前に向く人が少なからずいる。手首を曲げて指先は右へ向けること。
稀に掌心を前に向ける人もいるが、掌心は下に向ける。

5.弓歩上架掌
右足を強く蹴り出し、爆発的に弓歩になる。同時に素早く両掌を手首でクロスして上へ掲げる。
右手が外。
両肘は自然に曲げて衝撃に備える。
目線はやや上へ向ける。

6.震脚弓歩双推掌
前図上段の十字掌から、素早く両手を、まず体の正中線に沿って下へ払う。掌根のあたりに力点を置く。
右足は大きく一歩前進し、左足の真横へ強く踏み込む。
この時ズンッと床が響くほどにする。
同時に左足は後ろへ跳ね上げる。(図8)
続けて両掌を左右に払い分け、腰に構える。
目線は瞬間的に右下へ向ける。(一貫して前方に向けていても悪くはない)
左足は大きく一歩前進する。(図9)
瞬間的に半馬歩を経て足腰から発力し、左弓歩双推掌となる。(図10)
目線は前へ向ける。
ポイント:
上から下、下から前へ力が変化する。
両手で下に払う、あるいは掴んで引き下ろす動作をしながら踏みつけるにあたり、高くジャンプしてしまうと力が逃げてしまうので、震脚の際はあまり跳ばずに、右足を左足のすぐ横にただちに踏みこむ。(両足が瞬間的に地から離れて良いが、極端なジャンプにはしないこと)
また震脚の際、体を真正面ではなく心持ち右へ回すことで、次の左弓歩の蹴り足(右足)・右腰からの発力を活かす。
どの衝拳、推掌でも同様だが、ここは両手を挙げている。よって伸ばした両腕は完全に伸ばすと同時に、肘には下垂の意識もしっかり持ち、脇腹を守る。
この動作は左へ移動する最後の動作である。
ここまでの一歩一歩を大きくとる事も大事だが、ここで右足から両手まで伸びやかに作り、目力は更に強く遠くへ放つようにすると、演武が大きく見える。
大きく見えるという事は、勢力範囲が大きく見えるという事で、次に180度向きを変える動きに対しても存在感・安定感を示せる。



7.転身歇歩衝拳
弓歩から右回りで向きを変え、右足を引いて歇歩の準備をする。
胸を開くようにし、右掌を上、右へ加速して振り上げる。
相次いで左手もこれを追い、上から正面へ流す。
右手は抱拳となる。左掌は瞬間的にやや含胸し、体の前へ按掌をする(図11)。
左歇歩で座りながら、左手を腰へ引いて抱拳、右手は息を吐くタイミングで速度を上げ、衝拳をする(図12)。
ポイント:
急激な振り返りの際、両手を横へ振ると軸がぶれるので、歇歩でバランスを崩しやすい。これを避けるには手は腕を耳に着けるように真上を通して動かす。
目線は手を追って仰頭になっても良いが、体の軸は上へ立てたまま振り返る意識をもつ。
また、しゃがむ際には前足に体重をかけるようにし、下腹と左大腿部を密着、ロックさせる。
この際、”つぶれ”にならないよう胸はしっかり張る(図12参照)が、あまり上へ伸びあがるような姿勢をとらないようにする。
このような低姿勢の時は上体の軸はやや傾け、自分の頭部や背面に充分意識を置いておく。
この動作に関しては右脇を固め、右肩で守る意識を持つ。
左抱拳も緊密に脇腹につけ、伸ばした右手以外は極力一つの塊になるようにする。
尻に重心を置くとぐらつく。
気を遣う一連の動作であるが、衝拳は手伸ばしにならないよう、腰と上体の左ひねりを使って、強く拳面で打つ。


8.弓歩衝拳
立ち上がり重心を右足から左へ移しながら、瞬間的に左弓歩に近い形をとり、やや含胸して加速し、右掌を左へかすめ切る。
次いでただちに右弓歩になり、胸を張るタイミングで(呼吸に合わせ)、加速して左衝拳を打つ。
ポイント:
この左右の手は連続動作として緊密に行う。


入門長拳・前半 まとめ
カンフーを始めて間もなく学ぶ入門長拳。カンフー体操よりぐっと長くなり、動作も多彩になるので演武をしても大変見栄えがします。
これを習得すれば大会のドラゴン長拳にエントリーすることもでき、また長拳技能検定試験4級、3級へのチャレンジも視野に入って来ることでしょう。
次回の「初級長拳・後編」では、さらに動きの幅が広がる内容を取り上げ、入門長拳の全体像をより深く理解できるようにご紹介します。
模範演武 杉山徹朗 (カンフーチーム 点睛会所属)
執筆 石川 まな (カンフーチーム 点睛会 代表)
※1 当記事では号令のエイトカウントの区切りに合わせた便宜上、弓歩衝拳までを前半としています。
※2 当記事では(社)日本武術太極拳連盟『普及用長拳』,1998をテキストとしています。
参考資料
〇(社)日本武術太極拳連盟『普及用長拳』,1998
関連記事
入門長拳動作名称記事では、動作の中国語読みを確認できます。



