入門長拳・後編
前回の入門長拳・前編では、入門長拳の特徴と「弓歩衝拳」までの動作を紹介しました。
後編となる本記事では、そこから続く後半部分を丁寧に解説します。
この套路の後半は、高く蹴り上げる動作や、全身を使った大きな腕の振り回しなど、柔軟性を活かした長拳らしい伸びやかな構成が特徴です。
また、急激な方向転換からの正確な弾腿、二か所に登場する虚歩など、筋力とバランスのコントロールも求められます。
最初は一つずつ、丁寧にこなしていきましょう。
入門長拳の動作説明について
本記事も、前半と同様に「号令番号」※1に沿って動作を説明しています。
技能検定や指導員試験を目指す方は、公式テキスト※2の号令どおりに練習することをおすすめします。
図は前編からの通し番号になります。
入門長拳後半「虚歩下掛掌」から「併歩抱拳」まで
1.虚歩下掛掌
右を向き右虚歩になる。
右手は掌背に力を置き、外から中へ掛ける。
左手は同様に外から中へ、右前腕と合わせるようにする。(前腕に着けなくてよい。)
目線はやや下。あるいは水平に見る。
ポイント:
右掌心で前や右へ押し出す選手を見かけるが、ここは「掛」なので押し出さない。
この虚歩下掛掌は次の転跳歩と一連のものと考えて良いが、入門長拳の演武では区切りをつけて静止する。

2.転跳歩震脚衝拳
肩の力を抜き、素早く加速しながら右腕、次いで左腕を後方から上、前へと回す。この回し始めの時、右手は前動作「掛掌」の掌背で掛けた力を、瞬間的に後方に継続させる。
右手は前方に来た時、抱拳となりながら引き戻す。ほぼ同時に左手は下へ強く押さえる(按掌)。同時に右足を左足の横に強く踏み込む。
この動作は右手を上から下ろしながら、外旋させて引き込む力と、次いで左手が下へ抑える力を協調させる。
自分は”つぶれ”や”前倒し”にならないように、足腰を充分沈め、重心を釘のように真下に刺す。
右膝は自然に曲げ、床の下に響くような音が出る(図16)。左足は膝から曲げて跳ね上げておく。
足を大きく踏み出し、左弓歩右衝拳をする(図17)。
ポイント:
虚歩下掛掌から腕を回し始めたら、瞬間的に胸を開き、肩の力は抜いて加速させること。
震脚では、呼気と含胸、按掌を協調させ、上から真下へ全身の重みを使う。踏んだ直後にただちに重心を移動させず、力が地面の下に沈む”間”を持つこと。
左足を出し右衝拳を打つ際は、足と手の移動を同時に開始してはいけない。重心は右足に残したまま、まず左足を出し、半馬歩に近い形を経てから拳を打つ。(この動作は分解せず一連のものとして詰めて行う)
足腰の力が拳に伝わるように、この左足は心持ち横幅をとって置き、腰を左回転して強く打つこと。
拳の路線は腰の回転に沿ってやや左方向へ打ち出し、それから右へわずかな弧を描いて到達させる。


3.併歩推掌
左足を一挙に引き戻し、両足を完全に揃える。
同時に右手を外旋して引き戻しながら、その腕に沿うように左掌を押し出す。
ポイント:
前動作左弓歩衝拳の路線と逆回転で右手を引き戻す。(つまり腰は右回転し、先ほど内旋で内から外へ打ち出した手を、今度は外旋で外から中へ引き戻す)
この回転に合わせて左掌を押し出し、結果両腕の入れ替えは互いに擦るような路線をとる。
腰の右回転・抱拳の引きと、回転の軸から押し出される左推掌を協調させ、力強く行う。
目は前を見たままでも、あるいは推掌の前に一瞬右方向へそらし、ただちに推掌に合わせて前方に転頭し見てもよい。
出した手は肩甲骨から伸ばす意識を持ち、遠距離に手法を放つようにする。背に力を入れ、左手から右肩までは一直線のようになる。
遠くに出す手と引き戻す手の拮抗の中心となる体は、足の指側で支え、立ち姿勢は図のようにやや進行方向に傾斜がつく。

4.進歩右単拍脚
左足を一歩踏み出し、次いで右足を大きく振り上げ、その足の甲を強くたたき打つ。
左手は抱拳。
ポイント:
足はつま先までピンと伸ばす。
腹筋、背筋もしっかり使い、背は真っ直ぐのまま。軸足の膝は曲げず、足裏は地面を掴むように全面着地しておく。
右手は叩く直前までは掌の形をキープし、叩く瞬間に親指を開いて手の平をややすぼめる。足と手が互いに吸い付くように加速し、強い音を鳴り響かせる。
分かっていても抱拳をキープできない人がとても多いので、仲間に見てもらったりして練習する。
これは柔軟性がなければできない動作なので、柔軟を高めるトレーニングの進捗状況に合わせて、蹴り上げる高度を上げていく。

5.進歩左拍脚
先の動作から、右足を着地。右手は直ちに腰に引き戻し抱拳。左掌は高く挙げる。
ただちに左足を挙げて、先ほどと同様に左手で叩き鳴らす。
ポイント:
進歩右単拍脚、進歩左拍脚は併歩に戻らずに連続して(蹴り足がそのまま踏み込み足になるように)行う。
足の運びは軽やかにコントロールし、ドタバタと下ろさない。
いろいろなパターン:
拍脚の着地は連続して蹴る他に、毎回併歩に戻す、あるいは前点歩で着地させてから改めて踏み込むやり方もある。
どれも間違いではないが、併歩に戻すところから練習を始め、慣れてきたら前点歩、最終的には連続してできるようになるのが順序であり、どれも自在にできるのが望ましい。
この4,5の進歩拍脚は緊密に続けて行い、打ち鳴らす音も足の運びも連続させるのがよいが、入門の套路なので無理はせず順序を追って練習する。

6.弓歩衝拳
左足を軽く着地。まだ体重は乗せない。
左掌は左腰で抱拳を経て再び掌にし、下から前へ撩掌で出す。この時左足は改めて体重を乗せ踏み込む。右足は軽く挙げてタイミングをとる(図21)。
右足を大きく踏み出し右弓歩となる。右衝拳をする。左手は抱拳(図22)。
ポイント:
ここも右方向への最後の動作なので、拳はより遠くを打ち、強く進行方向を見ることで、演技が大きく見える。
また、この次の動作に備えて、この右弓歩は左右の足幅を狭めにとっておく。


7.転身弓歩上勾拳
左回転で180度振りかえり、左弓歩となる。
同時に右拳を下から前へ挙げて打ち、肘を曲げて止める。
左手は拳から手を開き、右前腕を抑える。(親指も開いて抑える)
ポイント:
上腕ではなく前腕を抑える。説明しても間違う子供が多いのでよく確認する。
太極拳愛好者から、180度振り返る時の足について、外展里扣の順序を聞かれるが、ここは一瞬なので自然に行う。
もし分解して考えるならば、まず前に出ていた重心を戻し、このタイミングで左足を自然に回す。次いで左脚を蹴り出していくとよい。
上勾拳は右足の蹴り出し、腰のひねりをつかって短く強く打ちあげる。頭部も脇も空け過ぎないような位置で止める。
ここで体がよじれて立ちづらいと感じるなら、6.弓歩衝拳での弓歩の左右の歩幅を狭くしてみる。

8.弾腿衝拳
左手を一瞬左腰につけ、抱拳を経る(図24)。
ただちに右弾腿左衝拳をする(図25)。
ポイント:
左抱拳を経ない人が多いが、テキストに指定があるので従う。また、ここの衝拳は肘が早々に脇を離れてしまう人も多いので気をつける。
弓歩から弾腿になる時は、左足は半歩引き戻さずに、そのままの位置で軸足となって右足の蹴りを支える。
カンフー体操で繰り返し練習した動作なので、確実にできるようにする。


1.左右弓歩換衝拳
右足を大きく下げ、一挙に体をしずめ左弓歩となる。この足は次の動作に備え、足の横幅を狭くとり、一直線に着地する。
同時に右衝拳をする。左手は抱拳。
「はい!」と発声する(図26)。
足はそのまま、左衝拳をする。
「はい!」と発声する(図27:準備中)。
素早く右弓歩になり、右衝拳をする。
「はい!」と発声する(図28)。


2.烏龍盤打
両手を掌に変える。
重心を左足に移し、腰を左へ回しながら右掌を下から前(このときは親指側が上で挑掌)へ振り回す。左掌は自然に後方に振る。
胸を開き腰を右へ回しながら右掌を加速させ更に上、右、前(この時は小指側が下で劈掌)、体の右下、後ろと振り回す。
左掌はこの路線を追って、上、前へ振り回す。開いた胸は左掌を前へ振る瞬間に含胸になり、手を再加速させる。
腰を左へ回転し、右掌を上、前へ振り回す。左掌は体の前下へ振り下げる。
右仆歩となりながら胸を開いて勢いを増し、右手で下にたたきつける。(右掌は途中で指を自然に開き、手の平で地面をたたくこと。)
左掌は斜め上へ挙げ、掌心は前へ向ける。
ポイント:
肩は力を抜き、腰の回転で素早く腕を振り回す。
路線は耳や大腿部をガイドに正確に縦の円で回し、特に右後方に右手を回す際は、膝の屈伸も使い、十二分に腰を右回転させること。
掌は更に挺胸、含胸を切り替えながら加速するが、これらは自分が感じる程度のごく軽い変化であり、見せる為に強調しない。
左右へ向く時、足は自然に動きや重心の微調整をし、ふらつかないように体を支える。
テキストには、挑、劈の要求があるので、それに従うべきだが、細切れでこなそうとせず、一連の動作は自然にリラックスして回すようにする。
仆歩では重心が後ろへ偏ると尻もちをつくので、前にかけておくこと。
いろいろなパターン:
腕の振り始めに左掌を右脇に差し込む選手もあり、動作として間違いではない。しかしテキストでは左手は後方に振っているので、それに従えば試験も安心。
腕を回すときに上を見ても良いし、そのまま左から右を見ても良い。
地面にたたきつける手の位置は、指導者によって体に近い所であったり、逆に足先に近い所であったりする。
試験では講師に従えば良く、試合では自分の習ったやり方でよい。
その他:
「烏龍盤打」というのは、入門長拳唯一の伝統呼称である。

3.弓歩上衝拳
重心を左から中央に移す。左掌は上から右方向に下げ押さえ、右手は抱拳になる。この時顔は左手の方向に向ける。
続いて重心を右へ移動し右弓歩になる。同時に右拳を上へ打ち上げる。拳輪が前を向く。
左掌は右脇につけ、目は左前方に素早く向ける。
「はーい!」と発声する。
ポイント:
左手は瞬間的に抑える動きが入る。

4.虚歩摆掌
両手を掌にし、下から後ろへ払い分ける。同時に左足を引き戻し、膝を曲げて小腿を軽く跳ねあげる。
顔は右後ろへ向ける。
左足を左前方に軽く着地させ、左虚歩になる。
右拳と左掌を顔の右で合わせる。顔は左前方に素早く向ける。
ポイント:
両手を下へ払う時は力を使う。
いろいろなパターン:
当記事の模範演武は立ち上がっていないが、虚歩になる前に一度立ち上がる選手も多い。
どちらも正しいが、弓歩から虚歩になる前に左足を右足にそろえて着地し、併歩にはならないようにする。

5.併歩抱拳
左足を揃え、正面を向いて併歩になる。
抱拳になる。

収勢
両手を下ろす。

入門長拳・全編 まとめ
本記事では、入門長拳の後半部分について詳しく解説しました。
後半では高く蹴り上げる動作や大きな腕の振りなど、長拳らしいダイナミックな動きが多く登場し、柔軟性・筋力・バランスなどの総合的な力が求められます。
焦らず一つひとつの動作を段階的に身につけていけば、きっと誰でも美しく力強い演武ができるようになるでしょう。
試合や技能検定試験に向けて練習を重ねる中で、本記事が少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
模範演武 杉山徹朗 (カンフーチーム 点睛会所属)
執筆 石川 まな (カンフーチーム 点睛会 代表)
※1 当記事では号令のエイトカウントの区切りに合わせた便宜上、弓歩衝拳までを前半、虚歩下掛掌からを後半としています。
※2 (社)日本武術太極拳連盟『普及用長拳』,1998をテキストとしています。
参考資料
〇(社)日本武術太極拳連盟『普及用長拳』,1998
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