重要事項
言っておかなければならない事は、先生は言います。
ダメなものはダメって言います。
今言っておかなければ、結局大きくなって苦労するのは君自身なんですよ。

先生は学校の工作が苦手でした。
時間内に作品を終わらせることが、まずできない。
世に出てからも、ここぞという時に何かが混乱しミスをしがちでした。
突然「大丈夫ですか?」と心配されるのも七不思議のひとつで、もしかして自分は地球の人ではないのかも、などと思ったりしました。
そんな時、ふと気づいたのです。
あせればあせる程、左手をつかってしまっている自分に。

そういえば「左利き?」と聞かれることが度々ありました。
先生は右利きです。
だからずっと「いいえ」と答えていました。
ただの会話だと思い込んでいました。
「左利きから右利きへ変えたのよ、おほほ」と母が笑ったのは、だいぶ後になってからです。
だいぶ苦労をしてからです。
いえ、むしろ近年です。
どちらの手を主に生まれついたのか、
そ、それは重要事項ではないですか。
なぜ伝えてもらえなかったのか、悔やまれてなりません。
自分を知り早々に意識を持てば、全ての流れが違ったかもしれないのに。
それなら家庭科でスカートと雑巾を一緒に縫うこともなかったかもしれない。
鉛筆削りの正しい回し方を大人になってから丁寧に教わることもなく、
改札はもっとスムーズに通れたでしょう。
右拳が左拳に劣る事などでうら若い頃悩んだりせず、
器械は双剣をチョイスしたのに…
先生は、重要事項をとり落としたくない。
カンフーはカンフーだけで組み立てられないから、カンフー以外の事にも口出しすると思う。
今という時は、この先の流れを変える「人生の上流」にあります。
この先に苦しみが少なく、喜びを多く味わえるように。
そのことを、まだ君はわからないかもしれませんが。

