さすがにこれはない、みんなだってそう思うでしょう?
先生はべつにきれいな字を書きなさいとは言っていません。
ただ、ほんの少し、ていねいに書きなさいと言っているんです。
いいんだよ、読めるからじゃありません。
ンとソとシとツをもう少し書き分けなさい。
カソフー仲間募集って書いて、新しい仲間が来るはずないでしょう。
読めないから言っているんです。
とっておきのコレクション

長年君たちに鍛えられましたから、先生は難解な文字に強くなりました。
そしていつしか、町中でこれは別格と思う字を見つけると、コレクションしてしまう変な癖がついてしまいました。
いいでしょう。
先生のとっておきのコレクションをここに出します。
自分に読めて他人には読めない字というものが、いかに厄介なのか身をもって知るがいい。

どうですか。
…まあ、これは簡単でしたね。
「昌」です。
そのまんまと言えば、そのまんまです。
では次は?

へえ、こんなの「本」に決まってると思いましたか?
未熟者めが。
君たちはまだ、この世の不可解を知らない。
これは「一本」と読みます。ほら、ここが少し長いでしょ?

難解な字の使い手に対しては、単にその字づらを見てもだめです。
とにかく相手の心理を深く探り、この人は今ここで何を訴えたいのか、推し量る技術が必要となります。
そう、もはや字を読もうとしてはいけないのです。
武の要領と同じ、心眼でとらえるのです。
では最後はこれだ。

どうしましたか?「1」と言いたいなら素直に言いなさい。
なんでもいいから、これだと思うものを言ってごらんなさい。
これは「3」です。
本人に聞いたわけじゃないですが、数か月にわたってこの人の書を何枚も見た結果、「3」と読むと全部つじつまが合うんですよ。
まん中にちっちゃいポッチがあるでしょう?
この字を書いた人にとっては、これが「3」なのです。
”以って他山の石とす”
だから君たちも、もーちょっと字は丁寧に書きましょうね。
